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叙意一百韻   

菅家後草〈叙意一百韻〉 菅原道真


生涯無定地     生涯は定地無し
運命在皇天     運命は皇天に在り
職豈図西府     職は豈西府を図らんや
名何替左遷     名何ぞ左遷に替カハれる
貶降軽自芥     貶降ヘンカウせらるること芥アクタよりも軽く
駈放急如弦     駈放クハウせらるゝこと弦ゲンよりも急なり
典(立心偏+典)赧顔逾厚 典(立心偏+典)赧テンタンしては顔逾々イヨイヨ厚く
章狂踵不旋     章狂ショウキョウして踵クビス旋メグらさず

牛岑(三水偏+岑)皆坎穽 牛岑(三水偏+岑)ギウシンは皆坎穽カンセイ
鳥路惣鷹亶(亶偏+鳥) 鳥路は惣て鷹亶(亶偏+鳥)ヨウセン
老僕長扶杖     老僕は長トコシへに杖に扶タスけられ
疲驂数費鞭     疲驂ヒサンは数々シバシバ鞭を費やす
臨岐腸易断     岐ギに臨んで腸断へ易く
望闕眼欲穿     闕ケツを望んで眼穿たんと欲す
落涙欺朝露     落涙は朝露を欺き
啼声乱杜鵑     啼声テイセイは杜鵑トケンを乱る
街衢塵羃々     街衢ガイク塵チリ羃々ベキベキ
原野草千(草冠+千)々 原野草千(草冠+千)々センセン
伝送蹄傷馬     伝デンには送る、蹄ヒヅメの傷める馬
江迎尾損船     江には迎ふ、尾ビの損ぜる船
郵亭余五十     郵亭イウテイ五十に余り
程里半三千     程里三千に半す
税駕南楼下     駕を税トく南楼の下
停車右郭辺     車を停トドむ右郭イウカクの辺
宛然開小閣     宛然エンゼンとして小閣を開き
覩者満遐阡     覩ミる者遐阡カセンに満つ
嘔吐胸猶逆     嘔吐オウトして胸猶ほ逆サカラひ
虚労脚且戀(病垂+戀) 虚労キョラウして脚アシ且マた戀(病垂+戀)ヤむ
肌膚争刻鏤     肌膚キフは争ふて刻鏤コクラウす
精魄幾磨研     精魄は幾ばくか磨研マケンせる
信宿常羇泊     信宿シンシュク常に羇泊キハク
低迷即倒懸     低迷して即ち倒懸タウケンす
村翁談往事     村翁ソンヲウは往事を談じ
客館忘留連     客館に留連リュウレンを忘る
妖害何由避     妖害エウガイは何ぞ避くるに由ヨシあらん
悪名遂欲蜀(益偏+蜀) 悪名は遂に蜀(益偏+蜀)ノゾかれんと欲す
未曾邪勝正     未だ曾カツて邪は正に勝たず
或以実帰権     或は実を以て権ゴンに帰す
 
移徒空官舎     移り徒ウツる空官舎
修営朽采椽     修め営む朽采椽キュウサイテン
荒涼多失道     荒涼カウリョウとして多く道を失ひ
広袤少盈廛     広袤クワウバウ廛テンに盈ミつること少マレなり
井壅堆沙甃     井壅フサガって沙を堆ウヅダカくして甃イシダタみ
籬疎割竹編     籬マガキ疎にして竹を割って編む
陳根葵一畝     陳根チンコンは葵アホヒ一畝
斑蘚石弧拳     斑蘚ハンセンは石弧拳コケン
物色留依旧     物色は留まって旧に依り
人居就不悛     人居は就いて悛アラタまらず

随時雖褊切     時に随って褊切ヘンセツなりと雖も
恕己稍安便     己を恕ジョして稍々ショウショウ安便アンビンなり
同病求朋友     病を同じうして朋友を求め
助憂問古先     憂を助けて古先コセンを問ふ
才能終蹇剥     才能終に蹇剥ケンハク
富貴本屯(之繞+屯)亶(之繞+亶) 富貴本と屯(之繞+屯)亶(之繞+亶)チュンテン
傅築巌辺藕     傅フが築チクは巌辺ガンペンに藕グウし
范舟湖上扁     范ハンが舟は湖上に扁ヘンなり
長沙沙卑湿     長沙チャウサ、沙スナ卑湿ヒシツ
湘水水淵(大冠+淵)巻(三水+巻(己のない巻)冠+糸) 湘水シャウスイ、水ミヅ淵(大
          冠+淵)巻(三水+巻(己のない巻)冠+糸)インワン
爵我空崇品     我を爵して空しく品を崇タカくす
官誰只備員     誰をか官カンす、只員に備ふ
故人分食敢(口偏+敢) 故人は食を分ちて敢(口偏+敢)クラはしめ
親族把衣前(三水+前) 親族は衣を把トって前(三水+前)アラふ
既慰生之苦     既に生の苦を慰む
何嫌死不瑞(之繞の瑞) 何ぞ嫌はん、死の瑞(之繞の瑞)スミヤかならざるを
薔(草冠のない薔)興(興冠+林冠+大冠+火)由造化 薔(草冠のない薔)興(興冠
          +林冠+大冠+火)ショウサンは造化ゾウクワに由る
忖度委陶甄     忖度ソンタクは陶甄タウケンに委す

荏苒青陽尽     荏苒ジンゼンとして青陽セイヤウ尽き
清和朱景妍     清和セイワ朱景シュケイ妍ケンなり
土風須漸漬     土風は須スベカらく漸漬ゼンシすべく
習俗擬相沿     習俗は相沿はんと擬ギす
苦味塩焼木     苦味は塩木を焼き
邪贏布当銭     邪贏ジャエイ、布ヌノ銭ゼニに当アつ
殺傷軽下手     殺傷軽く手を下し
群盗穏差肩     群盗穏やかに肩を差す
魚袋出垂釣     魚袋ギョタイは釣を垂るゝに出し
屏(竹冠+屏)篁換叩舷 屏(竹冠+屏)篁ヘイコウは舷を叩くに換ふ
貪婪興販米     貪婪タンラン販米ハンマイを興コウし
行濫貢官綿     行濫コウラン官綿を貢カウす
鮑肆方遺臭     鮑肆ホウシは方マサに臭シュウを遺ワスれ
琴声未改絃     琴声は未だ絃を改めず
与誰開口説     誰と与にか口を開いて説かん
唯独曲肱眠     唯独り肱を曲げて眠る

欝蒸陰霖雨     欝蒸ウツジョウす、陰霖インリンの雨
晨炊断絶煙     晨炊シンスイは断絶の煙
魚観生竃釜     魚観ギョクワン竃釜サウフに生じ
蛙呪聒階甎     蛙呪アジュ階甎カイセンに聒カマビすし
野竪供蔬菜     野竪ヤジュ蔬菜を供し
廚児作薄亶(食偏+亶) 廚児チュウジ薄亶(食偏+亶)ハクセンを作る
痩同失雌鶴     痩せたることは雌を失へる鶴に同じく
飢類嚇雛鳶     飢えたることは雛を嚇す鳶に類す
壁堕防奔溜     壁堕ちて奔溜ホンリウを防ぎ
庭泥導濁涓     庭泥デイしては濁涓ダクケンを導く
紅輪晴後転     紅輪カウリン晴後に転じ
翠幕晩来搴(手の代わりに衣) 翠幕スイマク晩来バンライに搴(手の代わりに衣)カカぐ
遇境虚生白     境に遇うて虚キョ白ハクを生じ
遊淡暗入玄     遊淡イウダンして暗アン玄ゲンに入る
老君垂迹淡     老君は迹を垂るること淡
荘叟処身偏     荘叟サウソウは身を処すること偏なり
性莫乖常道     性は常の道に乖ソムくこと莫れ
宗当任自然     宗は当に自然に任すべし
殷勤斉物論     殷勤インギンなり、斉物論セイブツロン
洽恰寓言篇     洽恰カフカフたり、寓言篇グウゲンヘン
景致幽於夢     景致ケイチは夢より幽カスカなり
風情癖未痊     風情癖未だ痊イへず
文化何処落     文化は何れの処にか落つる
感緒此間牽     感緒は此の間に牽ヒかる
慰志憐馮衍     志を慰めては馮衍フエンを憐み
銷憂羨仲宣     憂を銷ケして仲宣チュウセンを羨む
詞拑触忌諱     詞は忌諱キキに触るゝに拑ツグみ
筆禿述麁癲     筆は麁癲ソテンを述ぶるに禿トクす
草得誰相視     草サウは誰にか相視アヒシメすを得ん
句無人共聯     句は人の共に聯する無し
思将臨紙写     思は将マサに紙に臨んで写さんとし
詠取著燈燃     詠は取って燈を著けて燃す
反覆何遺恨     反覆するも何ぞ恨を遺さん
辛酸是宿縁     辛酸是れ宿縁シュクエン
微々抛愛楽     微々愛楽を抛ナゲウち
漸々謝葷亶(月偏+亶) 漸々ゼンゼン葷亶(月偏+亶)クンセンに謝す
合掌帰依仏     合掌して仏に帰依キエし
廻心学習禅     心を廻メグらして禅を学習す
厭離今罪網     厭離エンリす、今の罪網ザイマウ
恭敬昔真筌     恭敬ギョウケイす、昔の真筌シンセン
皎潔空観月     皎潔カウケツなり、空観クウクワンの月
開敷妙法蓮     開敷カイフす、妙法ミャウハフの蓮レン
誓弘無誑語     誓弘セイグして誑語キョウゴ無ければ
福享不唐捐     福フク享ウくること唐捐タウエンならじ

熱悩煩纔減     熱悩ネツノウの煩ワヅラひ纔ワヅカに減じ
涼気序罔愆     涼気の序愆アヤマつこと罔ナし
灰飛推律候     灰飛んでは律候リッコウを推し
斗建指星躔     斗建トケンしては星躔セイテンを指ユビサす
世路間弥隘     世路間にして弥イヨイヨ隘セマく
家書絶不伝     家書絶えて伝はらず
帯寛泣紫毀     帯寛うして紫の毀アブるゝに泣き
鏡照歎花顛     鏡照して花顛クワテンを歎く
旅思排雲雁     旅思リョシは雲を排する雁ガン
寒吟抱樸蝉     寒吟カンギンは樸ボクを抱く蝉

一逢蘭菊敗     一たび蘭菊の敗るるに逢ひ
九見桂花円     九たび桂花ケイクワの円マドロカなるを見る
帰室安懸磬     室に帰って懸磬ケンケイに安く
戸(戸冠+冂構+口)門懶脱鍵 門を戸(戸冠+冂構+口)トザして鍵を脱トるに懶モノウし
跛羊(爿偏+羊)重有執(執冠+糸) 跛羊(爿偏+羊)ヒショウ重ねて執(執冠+糸)
          ホダシ有り
瘡雀更加攣     瘡雀サウジャク更に攣レンを加ふ
強望垣牆外     強ひて望む垣牆エンシャウの外
偸行戸甫(片偏+戸冠+甫)前 偸ヌスみ行く戸甫(片偏+戸冠+甫)コイフの前
山看遥縹緑     山は遥かに縹緑ヒャウリョクを看
水憶遠潺湲     水は遠く潺湲ゼンクワンを憶ふ
俄頃贏(贏の貝の代わりに羊)身健 俄頃ガケイ贏(贏の貝の代わりに羊)身ルイシン健やかに
等閑残命延     等閑トウカンに残命延ぶ
形馳魂兄(立心偏+兄)々 形馳ハせて魂兄(立心偏+兄)々キャウキャウたり
目想涕漣々     目想オモひて涕漣々レンレンたり
京国帰何日     京国ケイコクには帰らむこと何れの日ぞ
故国来幾年     故国には来らむこと幾ばくの年ぞ
 
却尋初営仕     却カヘって尋ぬ、初め仕を営みしとき
追計昔鑚堅     追って計る、昔堅ケンを鑚キりしことを
射毎占正鵠     射ては毎ツネに正鵠セイコウを占む
烹寧壊小鮮     烹ニては寧ナンぞ小鮮ショウセンを壊さんや
東堂一枝折     東堂トウダウに一枝を折り
南海百城専     南海に百城専らにす
祖業儒林聳     祖業は儒林聳ゆ
州功吏部銓     州功シュウカウは吏部リブ銓ハカる
光栄頻照耀     光栄は頻りに照耀セウエウし
組珮競營(營の呂の代わりに糸)纏 組珮ソハイは競うて營(營の呂の代わりに糸)纏エイテン
          す
責重千鈞石     責セメは千鈞の石よりも重く
臨深万仭淵     臨むことは万仭の淵よりも深し
具瞻兼将相     具瞻グセン将相セウセウを兼ぬ
僉曰欠勲賢     僉ミナ曰ふ勲賢クンケンを欠ぐと
試製嫌傷錦     製セイを試みては錦を傷つけんことを嫌ひ
操刀慎欠鉛     刀を操っては鉛エンを欠がんことを慎む
兢々馴鳳戸(戸冠+衣) 兢々キャウキャウとして鳳戸(戸冠+衣)ホウイに馴れ
慄々撫龍泉     慄々リツリツとして龍泉リョウセンを撫づ
脱徒(尸冠+徒)黄埃俗 徒(尸冠+徒)シを脱ぐ黄埃カウアイの俗ゾク
交襟紫府仙     襟エリを交ふ紫府シフの仙セン
桜花通夜宴     桜花は通夜の宴
菊酒後朝筵     菊酒は後朝コウテウの筵エン
器拙承豊沢     器は拙うして豊沢ホウタクを承け
舟頑渡巨川     舟は頑ガンにして巨川を渡る
国家恩未報     国家恩未だ報いざるに
溝壑恐先填     溝壑カウガク先づ填ウヅまんことを恐る
潘岳非忘宅     潘岳ハンガク宅を忘るゝに非ず
張衡豈廃田     張衡テウコウ豈に田を廃せんや
風摧同木秀     風摧クダいては木の秀ヒイでたるに同じく
燈滅異膏煎     燈滅トウメツしては膏アブラの煎るに異なる
苟可営々止     苟モし営々として止るべけんも
胡為脛々全     胡為ナンスれぞ脛々ケイケイとして全からん
覆巣憎殻卵     巣を覆へしては殻卵コクランを憎み
捜穴叱虫(虫偏+氏冠+一)虫(虫偏+彖) 穴を捜しては虫(虫偏+氏冠+一)虫(
          虫偏+彖)チテンを叱シッす
法酷金科結     法は酷にして金科キンクワに結ばれ
功休石柱鐫     功コウは休して石柱セキチュウに鐫ホらる
悔忠成甲冑     忠チュウを甲冑カッチュウと成せしを悔い
悲罰痛戈延(金偏+延) 罰の戈延(金偏+延)クワセンより痛きを悲しむ
 
巣(王偏+巣)々黄茅屋 巣(王偏+巣)々サウサウたる黄茅コウボウの屋ヲク
茫々碧海需(土偏+需) 茫々たる碧海ヘキカイの需(土偏+需)セン
吾盧能足矣     吾が盧リョは能く足りぬ
此地信終焉     此の地は信マコトに終焉シュウエン
縦使魂思見(山偏+見) 縦使タトヒ魂タマシヒ見(山偏+見)ケンを思ふとも
其如骨葬燕     其の骨を燕エンに葬るを如イカにせん
分知交糺纏     分ブンは糺纏キウテンに交はるを知る
命巨(言偏+巨)質筵專(竹冠+專) 命メイは巨(言偏+巨)ナンぞ筵專(竹冠+專)
          エンセンを質タダさんや
叙意千言裏     意を叙ノぶ千言の裏ウラ
何人一可憐     何人か一に憐むべき
 

by w74108520 | 2011-02-12 20:59 | 詩文

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